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町家再生の現場——古い建物が新しい経済を生む
伝統と現代 2026年4月5日 · 8分で読める

町家再生の現場——古い建物が新しい経済を生む

京都市内に残る約4万棟の町家。取り壊しか再生か。古い建物を「資産」として再評価する動きの現在地を追う。

Japan Society Perspective 編集部

4万棟という遺産

京都市内に残る町家は約4万棟と推定される。だが、その数は毎年約800棟のペースで減少している。取り壊しの理由は老朽化、相続、維持費の負担、そして跡地をマンションや駐車場に転用する経済的インセンティブだ。京都の町並みは、個々の建物が消えるたびに不可逆的に変容している。

40,000 現存する町家数
▲800/年 年間減少数
2,000万〜 改修費用(円)
100〜150年 築年数の中央値

町家の建築的特徴

京町家は「うなぎの寝床」と呼ばれる間口が狭く奥行きの深い構造を持つ。これは江戸時代の税制(間口税)に対応した結果だ。通り庭(土間)が建物を縦に貫き、坪庭が採光と通風を担う。この合理的な空間設計は、高密度な都市環境での居住性を最大化する知恵の結晶である。

町家は建築遺産であると同時に、都市の経済構造が物質化したものだ

再生の経済モデル

町家の改修費用は最低でも2000万円、構造を大幅に補強する場合は5000万円を超えることもある。この費用を回収するビジネスモデルとして最も普及しているのが、宿泊施設への転用だ。「町家ステイ」として一棟貸しの宿泊施設に改修する事例は京都だけで300軒以上に上り、1泊3〜8万円の価格帯で運営されている。

DATA

京都市の条例では、町家の外観を大幅に変更する改修には景観審査が必要とされる。2017年に施行された「京都市京町家の保全及び継承に関する条例」は、解体前の届出を義務化し、歴史的価値の高い町家の取り壊しに歯止めをかける試みだ。

オーバーツーリズムとの軋轢

町家を活用した宿泊施設の増加は、住宅地における騒音やゴミの問題を引き起こしている。東山区や下京区の一部では、住民の約3割が「観光客の増加で生活環境が悪化した」と回答している。町家の保全と観光活用は必ずしも対立しないが、地域住民の生活との調和が前提条件であることは明らかだ。

新しい使い方

宿泊施設以外にも、町家の活用形態は多様化している。カフェ、ギャラリー、コワーキングスペース、そしてIT企業のオフィス——古い建物に新しい機能を接合する試みが各地で行われている。木造建築の断熱性や耐震性を現代の基準に引き上げる技術も進歩しており、「古いから不便」という等式は成り立たなくなりつつある。

活用形態件数(京都市内推定)特徴
一棟貸し宿泊300+最も収益性が高い
飲食店200+町家の雰囲気が付加価値
物販・ギャラリー100+文化的価値と親和性
オフィス・コワーキング50+新興の活用形態

残すことの費用と価値

町家を1棟維持するコストと、取り壊してマンションを建てた場合の収益を単純に比較すれば、経済合理性は後者にある。だが町家が連なる街並みそのものが京都の観光価値を構成しており、個々の取り壊しが全体の価値を毀損するという「合成の誤謬」が起きている。町家の保全は個人の財産権と公共の文化的価値の間の、未解決の緊張関係を示す事例だ。

編集部より

町家数の推定は京都市都市計画局の調査に基づきます。改修費用は複数の建築事務所への取材から編集部が概算した範囲です。個別物件の状態により大幅に異なります。

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